サンザシの花に英国を想う


東側の垣根に植えたサンザシが、咲いている。
リンゴと同じバラ科に属するこの樹は、英語でMay、あるいはHawthornという。枝という枝には、粒々に見える純白の小花が集まって咲き、満開になると雪が積もったように見える。
これは私が味わっている、「ちょっぴりイギリス気分」なのだ。
イギリス人にとって、この花は特別な花だった。
ピルグリムファーザーが大海原の荒波を越え、夢と希望と命を託して新天地へ向かった船の名が、「メイフラワー号」だった。
チューダー王朝のころ、5月1日のメイデイー(5月祭)には、こんな祝日があった。
村人たちが森や林から、花盛りのサンザシの枝を切り取って、歌い踊りながら広場へ集まり、中央にサンザシやリボンで飾ったメイポールを立てた。そして、最も美しい娘をメイクイーンに選び、にぎやかな音楽とともにモリスダンスを踊り、春の訪れを祝ったものだった。
この祭りはストイックな清教徒の顰蹙を買い、17世紀に禁止となったが、現在でも各地でこの踊りを継承しているチームがある。
1985年の夏、ケント州で素朴なリズムとともにこの踊りを見たとき、
中世の時代へタイムスリップし、白昼夢を見ているようだった。
10年ほど前、日も長くなった5月の初旬、
NHKのBS番組「太陽の食卓」の取材のために、ロンドンの北に当るサリー州から西部のデボン州までと、デボンからロンドンまでの長距離を一人で車の旅をしたことがあった。
田舎道にはサンザシのHedgerow(生垣)が多い。
どこまでも連なる牧草地の丘や農地を区切るのも、白いレースで飾ったようなサンザシの生垣だった。
あのなつかしいサンザシをわが家の生垣にして、
私はイギリスの想い出に浸っている。