最後のチューリップで





私が幼かった頃、花の絵を描くと、女の子はほとんどがチューリップだった。
粗悪なクレヨンでわら半紙に描き出すのは、
3枚に分かれた花弁が王冠のようなチューリップの花か、卵の形をしたつぼみで、
色は決まって赤か黄色・・・。
ピンクや白などを描く子はいなかった。
よく考えてみると、終戦になって数年しかたっていない。
果たして本物のチューリップを、見た子は何人いたのだろうか。
私がよく覚えているチューリップは、
レモンイエローのコンパクトな花で、上部がすぼまり、
それまで嗅いだことのないやさしい香りがした。
近所の理髪店の主人が大の花マニアだったので、
子供なのによく遊びに行っては、見せてもらった。
この黄色いチューリップは、ここでの記憶で涙ぐむほど懐かしい。
こうして、チューリップは私にとってノスタルジックフラワーとなった。
庭が出来た時、かなりの種類をあちこちに埋め、
時間差で開花期間を引き延ばしてきたが、
今シーズンはこの「アメジスト」がラストの4輪となってしまった。
プラムの樹の下に植えたこの数株は、日当たりの関係で一歩も2歩も、
開花が遅い。
昼は花弁を大きく開いても、
夜はパネルのように畳み込んで眠る紫水晶の色のチューリップ・・・。
花が散る前に、アイロンをパリッとかけたシーチングの上で、
遊ばせてもらった。
そして今、花弁をバスケットに広げ、
透明感のある新しい色に変化するのを待っている。