香り続けるジンジャー・リリー

いつもの年なら、もうすがれた状態になるジンジャー・りり-が、
ここ数日来の小春日和に、再び元気を盛り返した。
マレーシアやインドの辺りが原産地だから暑い気候を好むのに、
クリスマスも近くなった今頃まで生き生きと花を開き、
夕方になると甘い香りを漂わせているのは、
おそらく地球温暖化の影響にほかならない。
サーモンピンクや、紅い品種も持っていたが、
大好きな純白のこの花だけを残して、友達に上げてしまった。
ジンジャーリリーの白い花が咲くたびに思い出すのは、
日本のフラワーデザインのパイオニアで、
皇后美智子様が皇太子妃殿下の頃から、
お花の御用を勤めていらした村田ユリ先生のことだ。
ハーブのご縁で、
麻布の御自宅や御代田の広大な農園に通わせていただいたが、
その度に植物のことばかりでなく、
学ぶ、愛する、助ける、慈しむ、受け継ぐ、分かち合うことなどなど、
人生の中でとても大切なことを教えてくださった。
亡くなられる数年前の初秋、
御代田にはジンジャーリリーがなかったので、私の畑からお持ちすると、
涙を浮かべて頬ずりをするように深く香気を吸い込み、
「そう、思い出すわ、この花は夜に香るのよ」と、つぶやいた。
いつもは男勝りの行動力と決断力を持ち、ショートカットの見事な銀髪と、
マニッシュなスタイルできびきびと働く先生が、
熱帯の夜に香る花に女らしい一面を見せたことが、
不思議であり、なぜか嬉しかった。
「恋は大事よ。あなたも恋をしなさい。私のようにね」
ジンジャー・リリーの花の香りとオーバーラップして、
どこか遠くから、村田ユリ先生の声が聞こえたような気がした。