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今年の夏服

初秋の昼下がり、
庭を眺めながら「なつふく」と、つぶやいてみた。

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中学校までの夏服は、ほとんどが母の手作りだった。
戦後の耐乏生活を経て、人々の暮らしは少しずつ良くなってはいたものの、
子供服の既製品はまだ出回らず、あったとしてもとても高価なため、
子供たちは親に作ってもらった服を着ることが多かった。
我が家の場合、2歳ずつ年の離れた娘が4人もいたのだから、
寺の嫁として人一倍忙しい母にとっては、どんなに大変な仕事だったろう。

服を新調してもらえることになると、
頭の中はそのことばかり・・・・。
予算や制作の難易度、母の時間的な都合など考えることなしに、夢はどんどん膨らんでいく。

宝物のように大切にしていた「ジュニアそれいゆ」から得たデザインのヒントなどをもとにして、
母に頼みこんだのは、
襟や袖口に花弁のようなスカラップをしたフレーヤースカートのワンピースで、
中原淳一調のロマンチックなスタイルだった。

しかし、私のリクエストは即座に却下された。
その理由は、外出着は必要なし、ほどいて縫い直しができないからだという。
結局来上がったのは、簡単服という名にふさわしい青いリップル地の夏服だった。
母の考えは正しく、この服は何年着ても飽きるということがなかった。

今では夏服といっても、季節を問わず着ることが多い。
気に入ったものに出会ったときに買っていたが、
今年は久しぶりにブラウスを1枚誂えることにした。
数年前に求めておいたリバティの生地で何か作ってみたいと思ったからだ。

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”Angelica Garla ”という名前を持つこの生地は、
夏の日のハーブガーデンを描いた華やかな雰囲気の絵柄 が、布地いっぱいに広がってっている。
主役のアンジェリカは、小さな花が同心円状に咲きひろがるセリ科のハーブで、
ちょうどパラソルを広げたような散形花序という咲き方に特徴がある。
ところで、アンジェリカはパウンドケーキに入っている緑色の固形物だと思っている人はいないだろうか。
あれは、このアンジェリカの茎の砂糖漬けの代用品で、
いかにも薬草といった強い香りがあるためにフキに変えたのかもしれない。
古代ギリシャの時代から滋養強壮の薬として使われてきたが、
特に心身ともに女性を守るハーブとして知られている。


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図案の脇役はマロウ(ウスベニアオイ)に、色も花の形もさまざまなエキナセア。
目を閉じると花の間を飛び交うミツバチの羽音が耳元に聞こえてきそうだ。
ところで、私はこの夏服にはまだ袖を通していない。
連日の猛暑に、この素敵な図案が暑苦しく見え始め、服を着たいと思う気持ちが失せてしまったのだ。

涼風が立って、秋の日差しに変わった日、
私はきっとこの服を着たくなるだろう。

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