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トラヴェラーズ ジョイ ( Travellers Joy)

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庭で一番高い樹のネグンドカエデの枝に絡みついて、
トラベラーズ・ジョイ(Traveller's joy) の花が咲いている。


日本のセンニンソウによく似たクレマチスの原種で、
イギリスでは「旅人の喜び」とよばれるつる性のワイルドフラワーだ。
田舎道の藪や林の入口などに、ブッシュ状になって絡みつき、
ロンドン市内でも塀の上などからよく顔をのぞかせている。

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イギリスでは盛夏に、日本では夏の終わりを告げるこの純白のつる草に、
なぜこのような名前がついたのだろうか。
一説によると、16世紀の偉大な植物学者ジョン・ジェラードが命名したとあるが、
私は蔵書の中の挿絵に、そのヒントを見つけた。

英国に生まれた Cicely Mary Barker ( シスリー・メアリー・バーカー)は、
妖精の画家として知られている。

彼女の絵に登場する主人公は、草花の衣装を身に付けたあどけない表情の妖精だ。
それぞれの花の特徴を、見事にコスチュームに取り入れるアイデアは、
キューガーデンへ通い、植物の観察とスケッチを続けたことから生まれたという。
プレ・ラファエルを思わせるロマンと気品に満ちた作風は、人々を魅了し、
数多くの絵本や詩画集が出版されている。

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銀座の「イエナ書房」は洋書の専門店だ。
私にとってここはまさに宝の山で、暇を見つけてはよく立ち寄ったものだった。
欲しい本は山ほどあっても、
短大を卒業後講談社に入社し、20歳で独立。
親からの仕送りを断った暮らしでは、
本を買うゆとりなどはなかった。

この写真のフェアリーシリーズは、
そんな独身時代に、1冊ずつ買い足していった思い出の詩画集だ。
7冊セットなのに2冊足りないのは、友人からまだ戻ってないのかも・・・・。

ついつい、昔話になってしまったが、
肝腎のトラベラーズ・ジョイのページをご覧あれ。

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右のページでは少女の妖精が、
トラベラーズ・ジョイの花弁と蕊をチュニックに見立てた衣装で、
海に向かって手招きをしている。

左のページには、
大きな船で航海から帰る若い船乗りさん、
雨や強い日差しからあなたを守るあずまやを作ったわ、
日陰ができるように白い花綱で飾ったのよ。
ゆっくりとお休みになってね

韻を踏んで、このような大意の詩がつづられている。

「旅人の喜び」とは、旅の疲れrを癒してくれる日陰のことだった。
疲労困憊で、痛む足を引きづりながら一休みができる場所を探していると、
遠目からでもわかる白い花の群がりを見つけた時の嬉しさ・・・・。
花影に吹く涼しい風も伝わってくるようだ。

イギリスやアイルランド、スコットランドなどの小さなホテルやB&Bに、
Traveller’s Joyの名前を見かけるのは、
旅人にアットホームなやさしさをサービスするという意味なのだろう。


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遥かなイギリスに思いを馳せながら、
「旅人の喜び」を花ざかりのユーパトリウムと活けてみた。


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