12年目に咲いたリンゴ

12年前、私は60歳だった。
還暦の祝いに、赤い色の贈り物をたくさんいただいた。
この習わしは、赤い色には邪悪なものを退け、幸せを招く力が備わっている
と信じられて来たからである。
ならば私も、とばかりに、私自身に赤いリンゴの苗をプレゼントした。
「マイハート」という名前のこのリンゴは、かなりユニークな品種だ。
外皮が赤いリンゴは珍しくはない。
しかし、果肉が赤く、二つに割った時にハートの形が白く浮き上がるリンゴには、
まだお目にかかったことがない。
早速注文をして、大きなテラコッタのコンテナーに植え付けた。

あれから12年目にして、この春、初めての花が咲いた。
細ぼそとした枝ながらも、樹形もハートの形に見えるだろうか。
振り返れば、
せっかくだから、樹形もハート型にと思ったのは、
夫と訪ねたヴェルサイユ宮のポタジェ(野菜畑)で見たエスパリエ(横枝仕立て)が、
記憶に残っていたかだろう。
これまで花を見ることがなかったのは、
幹を肥らせるために花芽をすべてカットしてきたからだ。
まことに可哀そうなことをしていたものと、つくづく反省をしているが、
昨秋、もう一つリンゴ謝らければならないことが起きた。
左右から伸ばしてきた枝がようやく手を握り合った状態までこぎつけたのに、
予想外の大風で折れてしまったことである。
かろうじてハート形を保っているのは、
夫が庭中の樹の枝から、サイズとラインが出来るだけ合いそうなY字型の枝を探し、
留めつけたからだ。
義枝(?)となってくれたのは、セイヨウニワトコである。
ちなみに二ワトの漢字は、な、なんと接骨木と書く。
あまりにも出来過ぎた話ではないか。
「マイハート」の花は、つぼみの色がマゼンタ、
咲いた状態の色はパープルがかすかに混じったピンク・・・・。
花びらの裏の色が透けて、ぽっと頬を染めた少女の雰囲気だ。
待たれるのは実りの秋。
果たして、どのようなリンゴが実ることだろう。