Sketch of Sweden 6 夏至祭・ともに祝う喜び

少し遅れて広場に着くと、高々と掲げられたポールの下では踊りが始まっていた。
想像していた儀式ばった祭事というよりも、アットホームな感じで、
小さい子供たちと若い両親、おじいちゃんにおばあちゃんといった参加者が多いようだ。

本部のテントの中では近くの音楽愛好家による手作り楽団だろうか、
楽しげな曲を次々と奏でている。
民族衣装を着たこの女性は、
右往左往しながら集まってくる子どもたちを見事に列に加え、
楽しげに歌いながら、踊りの輪に誘いこんでゆく。

緑の木立に囲まれた広場には、ピクニック気分の観客が芝生の上に足を投げ出してリラックス。
バスケットからワインとサンドイッチなどを出してランチを始めるカップル、
久しぶりにクラスメートと出会ったのか、体育会系青年らしい笑い声が聞こえたり、
楽しみ方はさまざまだ。
踊りの輪が近付くと、手拍子を打っては掛け声をかける人もいて、盛り上がってきた。

お祭りだからといっても、普段着の子供たちがほとんどのようだ。
けれども、ちょっとしたよそ行きの服を着ている子の誇らしげな表情や、
お揃いの髪飾りをつけた姉妹、母親と娘の服のコラボレーションなどなど、
見ているだけでも興味深い。



髪飾りといえば、
野原や森で摘んだ草花を編みこんだ冠をかぶっている人が多いことに気がついた。
これは夏至の日に森へ行き、当日の夜に摘んできた野草を枕の下に敷いておくと、
未来の夫が夢の中に現れるという、昔からの言い伝えが形を変えたものだとか。
眼鏡がチャーミングな若い娘さんの冠は、
魔物を退ける力を秘めたシラカバの葉を繋げたもの。
天使のような少女の頭を飾るナチュラルフラワーの花冠。
金色の巻き毛と素朴な野の花がマッチして、イタリアルネッサンスの名画のようだ。
スエーデン女性の髪質は、ストレートヘアーが多いと聞いた。
ウエーブをつけるには、シャンプーをした後に三つ編みにし、
完全に乾いてからほどくとよいそうだ。
赤い髪飾リの少女は、この方法でウエーブをつけたのだろうか。


レッドクローバー、クサフジ、ミヤコグサ、クローバー・・・。
日本の都会でこうした牧歌的な草花が咲く場所は、そう近くにはない。
もしもあったにしても、他人の所有地へ入って草花を摘むことは、違法だ。
ところがスエーデンでは、このような野草は道端や空き地に雑草のように生えているし、
もっと美しいバラやアヤメ、ライラックなどの枝を切リ取ったとしてもおとがめなしだ。
というのは、この国に住む者には「自然享受権」という権利があり、
迷惑をかけなければ森の中のブルーベリーやキノコを採ってもよいという。
細かい決まりはあるが、たき火やテントを張ることもOKだとか。
自然の恵みに感謝し、祭りの喜びをともに祝おうという雰囲気を強く感じたのは、
なるほどこういうことの積み重ねがあったのだ。
正直のところ、夏至祭についての歴史的な意義、北欧神話との関係、薬草による民間療法
などについて期待していたが、こういう要素を満足させてくれる場所は、どこかにあるだろう。
しかし、私には値域のコミュニテイによる手作りの夏至祭りに参加できたことだけでも大満足で、
実に得難い体験だった。園子さんにも大、大、大感謝だ。

見物席で孫やわが子の晴れ姿に拍手を送るオーディエンスも、少々疲れてきたようだ。
懐かしい子供の頃の思い出と、BGM替わりのダンスミュージックが重なって、
幸せな夢でも見ているのだろうか。
まだ日は高いが休んでいるうちに、まどろみ始めた人たちも出てきた。
、
夏の訪れを告げる緑の若葉と、大地をいろどりる野の花を飾ったシンボルのポール。
今、踊っている子供たちが、次はポールを立てる番だ。
それまで地球全体がどうか平和でありますように。
受け継いできたからこそ、今日があるのだから。