Sketch of Sweden 6 夏至祭・白樺の綱を作る
今年の夏至祭り(Midsommardagen ミッドソンマルダーゲン)は、6月の21日だった。
日本で夏至といえば、朝の気象情報などで今日がその日だと知る人が多いようだ。
しかし、冬が長い北欧では昼の時間が最も長い夏至の日を待ち焦がれ、各地にお祭りが残っている。
今回の旅の大きな目的は、この夏至祭りを見ることだった。
調べてみると、有名観光地や自治体などが観光客誘致のため大々的に行っている場所がある。
こうした作られたお祭りよりは、昔ながらの素朴な祭がないものだろうか。
私は道すがら立ち寄った旅人だが、ただ見るだけでなく出来れば何らかの形で参加するとか、
お手伝いをしたいものだ。
園子さんに相談してみると、
「それなら、うちの近くにいい所ががあるわ」と、請け合ってくれた。
こちらの大学に留学し、スエーデン人と結婚して10年になる彼女は、
情報と経験による強いネットワークを持っている。
ありがたい、とばかりに夏至祭イヴの20日と当日の二日間、
園子さんの住む町・ヴェステロースのホテルを予約した。
ヴェステロースは、ストックホルムから北へ列車で1時間の都市だ。
駅前に植えられた西洋菩提樹の見事な並木が街中まで続く静かな町で、
夏至の日とその前日が祝いの休日になっているせいか、人影もまばらだ。

アグネータさんのお宅では、テレビがどこにあるかわからない。
無いことはないだろうが、テレビの音が聞こえてきたことがないし、
テレビ番組の話が会話の中に登場することもなかった。
久しぶりにホテルで見たテレビは、朝から夏至祭一色!!!
アナウンサーもコメンテーターも、祭りを象徴する花冠をかぶって大いに盛り上げている。
さぁ、今日は夏至祭りだ。

スウェーデンでは、ウォーキングやサイクリングをしている人々が多い。
野の花が風に揺れ、木の枝が木陰を作る自然の中を軽快なスタイルで走り抜ける人の表情は、
誰もが幸せそうだ。
連れていってもらった夏至祭の会場は、
園子さんのサイクリングコースとなっている小さな島の森の中にあった。、

午前10時半頃に森を抜けると、小さな建物と芝生の広場があり、数人の男性が立ち働いていた。
車に乗せてきた白樺の枝や道具類を、どこかへ運んでいるらしい。

女性のグループも働き始めていた。
”God morgon”(グロモン:スエーデン語で「お早う」の意味)
挨拶を交わしながら近寄っていくと、
園子さんがリーダーと思しき人に、私の飛び入り参加の件を話しているところだった。
「どうぞどうぞ、いいですとも。みんなと同じように作業してください。でも無理はしないでね」
日本から来たというと、驚いたことに彼女は小田急線のサガミオオノに住んでいたことがあるとか。
私の車椅子姿を気遣いつつ、励ましてくれた。
まず、私の最初の仕事は、白樺の細い幹から小枝を切り取って数本ずつまとめることだった。
しなやかな白樺の小枝は優しい感触で、手袋無しの掌に気持ちがよい。
次は、この小束をリーダーとともにワイヤーで巻き付けながら、
1本の長いロープに仕上げてゆくのだが、なかなかうまくいかないこともあった。

その理由は、小束の量が作る人によってまちまちだからだ。
大きめのゴロンとした束を渡されるとそこだけ重たくなって、伸ばした時に切れやすくなり、
反対にほっそりした束でも千切れそうになる。
どうも日本人はこういう点が気になるのだが、みんなは気にせず適当に仕上げていく。
それがうまくいくのだから、びっくり。と同時に、「これでいいのだ~」とも納得。

だんだん呼吸が合ってきたところだが、ちょっと一休み。
何しろ日差しが強いので、みんな汗みずくだ。各自紙コップに名前を書いておき、
水分の補給を怠らないようにと、お互いに注意しあっている。
こんなことでも何となく仲間になったような気がして、嬉しい。

夢中になって取り掛かっていたが、気がつくといつの間にか人数が増えている。
先ほどまでは中高年の女性が多かったのに、男性も交えた若い人たちが手伝いに駆けつけ、
ポルトガル語やフランス語などのほか、さまざまなお国ことばが聞こえ始めた。
近くにある専門学校の生徒や、夏至祭で帰省中の若者などのようだ。
隣にいたチャーミングな女性は、南米のブラジリアから友人を訪ねてきたが、
「初めての経験ばかりで、もう興奮しちゃって・・・」と上ずった声で話している。
この白樺の葉のロープは、いったい何に使うのだろう。
世話役の男性は、
「夏至祭のシンボルは大地に突き立てた緑色の柱だ。
皮を剥いた柱を今作った白樺の綱でぐるぐる巻きにして、
精霊が宿る力強い緑の柱に変えるのだよ」と語ってくれた。

かなり長いロープが出来た。
切れないようにみんなで丁寧に持ち上げて、
トップに花飾りを着ける場所へ運部ころには人々の気持ちもぴったり合ってきた。

芝生の広場を前にした位置には、本部席らしいテントの準備も始まっていた。
四隅に結び付けられた白樺の枝には、おそらく邪気を払う魔よけの意味があるのではないだろうか。
思い出したことがある。
日本の地鎮祭では、土地を浄化する力を持つといわれている竹を四隅に配置する。
いずれも大地に感謝し、今日ここで行われる行事が何事もなく無事に済みますように、
という意味がこめられているようで、興味が深まる。
さぁ、次は柱のトップに飾る花輪作りをさせてもらおう。
(つづく)
日本で夏至といえば、朝の気象情報などで今日がその日だと知る人が多いようだ。
しかし、冬が長い北欧では昼の時間が最も長い夏至の日を待ち焦がれ、各地にお祭りが残っている。
今回の旅の大きな目的は、この夏至祭りを見ることだった。
調べてみると、有名観光地や自治体などが観光客誘致のため大々的に行っている場所がある。
こうした作られたお祭りよりは、昔ながらの素朴な祭がないものだろうか。
私は道すがら立ち寄った旅人だが、ただ見るだけでなく出来れば何らかの形で参加するとか、
お手伝いをしたいものだ。
園子さんに相談してみると、
「それなら、うちの近くにいい所ががあるわ」と、請け合ってくれた。
こちらの大学に留学し、スエーデン人と結婚して10年になる彼女は、
情報と経験による強いネットワークを持っている。
ありがたい、とばかりに夏至祭イヴの20日と当日の二日間、
園子さんの住む町・ヴェステロースのホテルを予約した。
ヴェステロースは、ストックホルムから北へ列車で1時間の都市だ。
駅前に植えられた西洋菩提樹の見事な並木が街中まで続く静かな町で、
夏至の日とその前日が祝いの休日になっているせいか、人影もまばらだ。

アグネータさんのお宅では、テレビがどこにあるかわからない。
無いことはないだろうが、テレビの音が聞こえてきたことがないし、
テレビ番組の話が会話の中に登場することもなかった。
久しぶりにホテルで見たテレビは、朝から夏至祭一色!!!
アナウンサーもコメンテーターも、祭りを象徴する花冠をかぶって大いに盛り上げている。
さぁ、今日は夏至祭りだ。

スウェーデンでは、ウォーキングやサイクリングをしている人々が多い。
野の花が風に揺れ、木の枝が木陰を作る自然の中を軽快なスタイルで走り抜ける人の表情は、
誰もが幸せそうだ。
連れていってもらった夏至祭の会場は、
園子さんのサイクリングコースとなっている小さな島の森の中にあった。、

午前10時半頃に森を抜けると、小さな建物と芝生の広場があり、数人の男性が立ち働いていた。
車に乗せてきた白樺の枝や道具類を、どこかへ運んでいるらしい。

女性のグループも働き始めていた。
”God morgon”(グロモン:スエーデン語で「お早う」の意味)
挨拶を交わしながら近寄っていくと、
園子さんがリーダーと思しき人に、私の飛び入り参加の件を話しているところだった。
「どうぞどうぞ、いいですとも。みんなと同じように作業してください。でも無理はしないでね」
日本から来たというと、驚いたことに彼女は小田急線のサガミオオノに住んでいたことがあるとか。
私の車椅子姿を気遣いつつ、励ましてくれた。
まず、私の最初の仕事は、白樺の細い幹から小枝を切り取って数本ずつまとめることだった。
しなやかな白樺の小枝は優しい感触で、手袋無しの掌に気持ちがよい。
次は、この小束をリーダーとともにワイヤーで巻き付けながら、
1本の長いロープに仕上げてゆくのだが、なかなかうまくいかないこともあった。

その理由は、小束の量が作る人によってまちまちだからだ。
大きめのゴロンとした束を渡されるとそこだけ重たくなって、伸ばした時に切れやすくなり、
反対にほっそりした束でも千切れそうになる。
どうも日本人はこういう点が気になるのだが、みんなは気にせず適当に仕上げていく。
それがうまくいくのだから、びっくり。と同時に、「これでいいのだ~」とも納得。

だんだん呼吸が合ってきたところだが、ちょっと一休み。
何しろ日差しが強いので、みんな汗みずくだ。各自紙コップに名前を書いておき、
水分の補給を怠らないようにと、お互いに注意しあっている。
こんなことでも何となく仲間になったような気がして、嬉しい。

夢中になって取り掛かっていたが、気がつくといつの間にか人数が増えている。
先ほどまでは中高年の女性が多かったのに、男性も交えた若い人たちが手伝いに駆けつけ、
ポルトガル語やフランス語などのほか、さまざまなお国ことばが聞こえ始めた。
近くにある専門学校の生徒や、夏至祭で帰省中の若者などのようだ。
隣にいたチャーミングな女性は、南米のブラジリアから友人を訪ねてきたが、
「初めての経験ばかりで、もう興奮しちゃって・・・」と上ずった声で話している。
この白樺の葉のロープは、いったい何に使うのだろう。
世話役の男性は、
「夏至祭のシンボルは大地に突き立てた緑色の柱だ。
皮を剥いた柱を今作った白樺の綱でぐるぐる巻きにして、
精霊が宿る力強い緑の柱に変えるのだよ」と語ってくれた。

かなり長いロープが出来た。
切れないようにみんなで丁寧に持ち上げて、
トップに花飾りを着ける場所へ運部ころには人々の気持ちもぴったり合ってきた。

芝生の広場を前にした位置には、本部席らしいテントの準備も始まっていた。
四隅に結び付けられた白樺の枝には、おそらく邪気を払う魔よけの意味があるのではないだろうか。
思い出したことがある。
日本の地鎮祭では、土地を浄化する力を持つといわれている竹を四隅に配置する。
いずれも大地に感謝し、今日ここで行われる行事が何事もなく無事に済みますように、
という意味がこめられているようで、興味が深まる。
さぁ、次は柱のトップに飾る花輪作りをさせてもらおう。
(つづく)