野分きだちて

野分きだちて俄(にわかに)に膚(はだ)寒き夕暮れのほど、常よりも思いいづる事多くて・・・
台風が去った後の庭で、ふと源氏物語の一節を思い出した。
たしか[桐壺]だっだと記憶しているが、
野分き、あるいは野分けというのは、原っぱの草をかき分けながら吹く大風のことである。
この程度なら、平安時代の嵐はかわいいものだ。
台風12号が大暴れをしたために、今、三重や和歌山,奈良県の周辺では大変な被害が出ている。
我が家では強い風が西洋菩提樹の枝を折り、嵐は花壇の花の上で地団太を踏んで去って行った。
黄色やピンク、オレンジなどの花は、長雨ですっかり徒長してしまったジニア(ヒャクニチソウ),
フワフワした薄紫の花は、昨年ドワーフだったアゲラタムだ。一般にコボレダネで増えた株は、
元に戻って高性になるケース多い。おそらく矮化剤の期限がきれたものとみえる。

アーチの下に細い通路があったのに、今はアゲラタムに占領されてしまった。
それにしても、昔の姫君は梅雨時をどのようにして乗り切ったのだろうか。
父親が有力者だったり、高貴な血筋の方なら雨漏りや、お召ものの心配もいらず、
召使たちも張り切って、貴公子たちが訪問し易いサロン作りにはげんだことだろう。
しかし、末摘む花のように容姿だけでなく、住まいやもろもろのものにも「難あり」の
お姫様のばあいは、十二単は重たく、汚れていたにちがいない。
洗い替え用に一式そろえるのは大変な出費なので、香をたきしめたり、几帳を調節して
夏のしつらいを考えたものと思われる。
当てずっぽうの空想は、どこまでも広がる。
久しぶりに青空の下で、のんびりとしていると、もう赤とんぼが飛んでいた。