白い花畑が語ること

「ねぇ、あそこだけ真っ白なのはなぜかしら」と、私はつぶやいた。
ここは三浦半島の三崎にある野菜畑だ。
気持よく晴れた日曜日、庭仕事をしていたら妹夫妻がドライブに誘ってくれた。
いつものように湘南方面へということになり、
パステル画のような新緑の山や雑木林を眺めながら佐島へ行き。
浜から揚がったばかりの新鮮な魚を買った。
日曜なのに思いのほか道路が空いていたので、次は三崎へ行くことにした。
妹のリクエストで車を止めたのは、キャベツや大根などのなだらかな畑が続く場所で、
相模湾を挟んだ対岸は千葉県の木更津だ。
時おり車の走行音が聞こえるだけで、何んと静かな昼下がりだろう。
空のかなり高いところからひばりの鳴き声が聞こえてくる。
小学校の時に暗唱させられた、 R・ブラウニングの
「片岡に露みちて 揚げ雲雀なのりいで、蝸牛枝に這ひ、
神そらにしろしめす。すべて世は事も無し。」
にぴったりの光景ではないか。
「本当に真っ白ね。春そばの花にしては整然としすぎだし、マーガレットの花でもないし、もしかしたら種子取り専用のニンジンかなぁ。車で近くまで行けません?」と私。
「カ―・ナビに道は出ていないし、見たところ農道もないようだな。こりゃ無理だよ」と義弟。

こうなってくると、どうしても知りたくなってきた。
妹も同様らしく、通りがかりの地元の人に聞いてみた。
「あぁ、あれは大根の花だよ。
あの家の長男坊の畑なんだが、あいつに不幸があって・・・・。
収穫する人がいなくなってしまったから、大根に花が咲いてもそのままなのだよ。
おれたちも見るのが辛くて・・・」
気をつけてみると、真っ白な畑は飛び飛びだが4か所ほどあった。
その中の1枚の畑は、収穫している途中だったのか、3分の1ほど花が咲いている。
よほど急な死だったのだろう。
白い花には、悲しみが詰まっていたのだった。
好奇心で開けてしまったパンドラの箱・・・・。
その畑を振り返るのが辛い。
しばらくの間私たちは前方だけを見ながら、帰途に就いた。