明日の朝、ロンドンへ

明朝、6時半の便で、ロンドンへ出発する。
耳ざとい友人が「ロンドンへ何をしに行くの?」と聞いてきたら、
「オリンピックよ」と、事もなげにけろりと答えることにしているのに、
まだ誰も聞いてこない。
それはそうだろう。
数年前から腰痛に悩まされ、テレビ出演や講演などの仕事は休みにしていたのだから、
海外旅行など考えも及ばないと思う。

つい先日、夫の山のような仕事が峠を越した。
花盛りの庭でゆったりと朝食をとるのも久しぶりだ。
2杯めのお茶を淹れたとき、夫が「イギリスへ行こうか」と話しかけてきた。
「え? 冗談でしょ。行きたいけれど、もったいないわ。
それにこの腰痛だもの、自信がないの」
「いや、お金のことならなんとかなるよ。じつは埋蔵金があるんだ」
聞いてみると、これまで口座を開いていた通帳の残高を集めると、
片道分ぐらいになるという。
机の引き出しや箪笥の中に眠っていた家族の貯金通帳を、
そのままにして放っておくと、
政府の金として使われると聞いたのは最近のことだ。
それではあまりにも口惜しいではないか。
もう海外旅行には行けっこないと、ほとんど諦めていたのに、
夢が現実になるとは・・・。
「今までよく働いてくれたから、ボーナスのつもりだよ。
それと、ちょっと早いけれど結婚50周年の前祝いだとしておこう」
軍資金がいくらあったのかしらないが、早速旅行会社と連絡を取り合い、
車椅子持参で行く「英国花の旅」のプランができあがった。

正直のところ、車椅子で行動するのには、まだこだわりがある。
勇気を出して外出しても道往く人の視線が気になり、
惨めな気分に陥ることも多かった。
そのたびに自分に言い聞かせたのは、
「あなたは恵まれている。その事を忘れるな」ということだった。
ほんとうに私は、恵まれている。
体が不自由になってからでも、自分の好きな花やハーブを植える自由とわがままを許され、
おかげで庭造りの楽しみは、ますます深くなってきている。

思い返すと、30代の最後の年、
「熟年の生活設計」というタイトルの懸賞論文にチャレンジしたことがあった。
受賞者には、アメリカにショートステイして、
社会福祉のことや女性学などを学ぶ機会がが与えられる。
しかも、オールギャランテイという優遇なのだ。
私は熟年を50歳台と位置付け、
当時のアメリカで注目されていた「園芸療法」を学び、人々のために尽くしたいと書いた。
相当高い倍率だったという論文にパスした後に面接があり、幸運にも私はウイナーとなった。
あれから30年。
あのときに知り合ったアメリカハーブ協会の方々のおかげで、
ハーブの勉強をするためにあらためて渡米し、
園芸療法を少々かじったのは、50代の時だった。
今、私が毎日のように庭へ出ては、癒されたり励まされているのは、
まさに園芸療法の実践そのものだと思われてならない。

あぁ、もう11時を過ぎた。
日付が変わり小鳥が啼き出す頃に、夫と私は羽田へ向かう。
車椅子の旅では、どんなことが待ち受けているのか、
私が習いたいと思ったことは果たしてかなうのか、
またしばらく休んでしまうことになるが、
7月1日からのこのブログをどうか待っていてほしい。
それでは、行って来まーす!!!