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汐の香漂う海の幸

外出から帰ってくると、玄関に大きな宅急便が置いてあった。
3日前のことだが、今でもふたを開けたときの香りが忘れられない。
阿波の徳島に住む染色作家のフナイさんから、今年も1番刈りの若布が届いたのだ。フナイさんと片仮名で書いたのはひじょうに珍しい漢字で,左側に舟、右側に久を組み合わせた字と井戸の井で、フナイさんと読む。
3年前、高知の牧野植物園で唐辛子の展示と講演を行ったときに、高知市内で心温まるハーブの仕事をなさっておられる楠瀬御夫妻の紹介で知り合った素敵な方だ。徳島までドライブをし、藍染を教わったが、あのとき制作したマフラーはアメリカのハーブの先生にプレゼントして、大好評だった。

さて、箱の中には汐の香がぷんぷんする若布がどっさり入っていた。
20センチほどに切った茎若布は、このあたりでも今頃出回るが、茎から若布の先端まで2メートルもあるのには最初びっくりしてしまった。かすかに日の光が射す海中で、このような若布がゆらゆらしているのだろうか。
早速1番大きな寸胴鍋にたっぷり湯を沸かし、茹で始めたが、台所に子供たちがいないのがさびしい。熱湯にこげ茶色の若布を投じた瞬間、さっとエメラルドグリーンに色が変わる瞬間を見せたくて、昔は息子たちを台所へ呼び集めたものだった。なぜか彼らはこれとイカをおろすところを見るのが好きで、「実験エス」と呼んでいたことが、なつかしい。

たくさんいただいたので、その日のうちに小分けにして隣近所や宅急便で妹へ送ったりして、瀬戸内のの海の幸を分かち合った。
若布の刺身、青柳とあさつきのぬた、茎若布のとろろ、しょうがとアッサリ煮などなど、ここ2,3日はおかげさまでヨード分満点。
若布類を英語でSEA WEED というが、イギリスのハーブ研究家、DENI BOWNはハーブの範疇に入ると、話してくれたことがあった。
詳しく調べてみよう。

ここまで書いていたらチャイムの音がした。
「まぁ、これはこれは」
噂をしたばかりの高知の「アットイーズまるふく農園」の楠瀬さんから、大好物の土佐文旦が届いたではないか。
四国の香りに包まれて、私はニコニコしている。
フナイさん、楠瀬さんありがとう!



こんな日にこそ焼きリンゴ

ベッドの中で、雨音を久しぶりに聞いた。
ちょうど頭の上の位置に、北欧製のベレックスという天窓があるので、ガラスを打つしとしとという音が耳に心地よい。
3日間にわたった庭仕事が一段落したあとのお湿りとは、何とグッドタイミングだろう。庭の斜面で咲き始めた水仙や、花壇のあちこちで芽を出しているヒヤシンス、スパニッシュブルーベル、スノウドロップ、スターオブベツレヘムなどは、大喜びしているにちがいない。

午後にデザイナーのTさんがみえるのだが、お茶菓子はどうしよう。
あいにく気の利いたお菓子の買い置きがないし、雨の中を買い物に行くのもおっくうだ。そこでひらめいたのは「焼きリンゴ」。こんな肌寒い日にはぴったりのスイートではないだろうか。ちょうど青山のナチュラルハウスで買った小ぶりの紅玉に、スリランカで求めたシナモンもある。
まず、調理中にパンクしないように、リンゴの表面にフォ-クで穴を開ける。芯をくり抜き、中にグラニュー糖を入れたらバターの小さな塊を詰め、シナモンを挿す。小さく切ったアルミ箔を上部にかぶせると、焦げるのを防ぐのに効果的だ。耐熱性の容器に水を2センチほど入れ、200度に暖めていたオーブンで約35分焼いたらできあがり。容器にこびりついたゼリーをお湯少々で溶かし、ソースにするとさらに上等な味になる。

今日はアールグレイの紅茶にした。Tさんは「あぁ、おいしいね」と喜んでくださったが、焼きリンゴはミントティーやジャスミンティーともよく合う。紅玉はこのごろ高価になったばかりでなく、なかなか手に入らなくなったのが残念だ。どこかでストックしてないだろうか。もしも入手できたら、ミルクキャラメルを穴に詰め、あつあつに溶けたところを食したいものだ。

20年目のNew ハーブブック

眠い、頭が痛い・・・・。せっかくいい天気だというのに、こんな調子ではでは庭仕事も辛い。原因は徹夜をしてしまったのだ。
昨年の秋に出版した「広田せい子のNewハーブブック」の増刷が決まり、1冊分のチェックを念入りに行っていたら,いつの間にか朝になっていた。それにしても、半年もたたないうちに2刷りが出るのは、活字離れといわれている昨今、嬉しいことだ。
この底本は、今から20年前に山と渓谷社から出版した「広田せい子のハーブブック」だ。20刷近くなっていて、まだまだ売れそうだったが、これから20年後のためにリニューアルすることになった。いざ手がけてみるとあれも直したいこれも紹介したい・・・・。思い返すのも辛いほど、去年の春から夏は疾風怒涛のような毎日だった。結果として文・写真とも約90%は新しくなリ、新品同様。そのため、タイトルにNewの文字を加えたのだった。
20年前といえば、ハーブを知らない人がほとんど。ポロンポロンと弾くハープと間違えられたり、ハーブティーがハブ茶になってしまったり、当時の奇談珍談はいくらでもある。今ではハーブ愛好家だらけで、全国規模のハーブショップができ、ハーブガーデンも数え切れない。これほどまでにハーブが普及したのは、1985年からハーブの講師を勤めてきた、NHKテレビ「趣味の園芸」のおかげだと思う。全国のお茶の間で20年間ハーブの利用と栽培を指導してきたことで、私の人生も大きく変わった。
これからどんなステージが待っているのか、どきどきしている。

ラブ子さんから届いた玉手箱

ぽかぽか陽気に誘われて、庭仕事を今日からスタートした。
去年は机に向かっている時間が長かったことと腰痛のために、庭の手入れがおろそかになり、気になっていたのだ。伸びた枝の剪定はもう私では手におえない。庭師が月桂樹の垣根に鋏を入れるたびに、緑色の香りの飛沫が飛び散り、台所のほうまでいい香りがしてくる。
午後の便で福岡の友人から、重たい段ボール箱が届いた。
ラブ子さんこと、愛子さんからの愛情がぎっしり詰まった玉手箱だ。
今回は何が入っているのかな? 箱の中から現れたのは、赤いつぼみをつけた椿と紅梅の枝数本、柔らかそうなホウレンソウがどっさり、小松菜、茎立ち菜、菜の花、ラデイッシュ、白菜、人参、大根、柚子酢、手作り柚子コショウなどが、まるで手品のように出てくる出てくる! そのどれもが新鮮でいかにもおいしそうなのは、JA勤務の専門家ラブ子さんが育てた野菜だからだ。
張りのある声がいかにも健康そうなラブ子さんは、4月になったら筍も送ってくださるとのこと。さあ、この野菜をどんなふうに料理しようかな。


チョコレートもスパイス?

「今からそちらへ向かいまーす」
昼過ぎに、長男のところの孫娘から電話があった。何の用事で来たいのか言わなかったが、今日は12日。きっとバレンタインデイーのプレセントを、家族揃ってジイジに持ってきてくれるのだろう。察した夫は、いそいそとお茶菓子を買いに出かけた。
「セント・バレンタイン、おめでとう」やはり、長男の嫁と孫娘はプレゼントを届けにきてくれたのだった。
いつもは二人の手作りだったが、今年は新しくできたケーキ店から、とても変わった生チョコを買ってきてくれた。「僕にも味を見させて。楽しみにしていたんだよ」と長男。早速箱を開けて1個ずつ味わってみたが、面白いというかユニークと言ったらよいのか。黄な粉をまぶしたさいころ型のチョコレートを、口に入れると最初は黒砂糖のきいた羊羹の味がした。次にチョコレートっぽくなったかなと思ったら、ごくんと飲み込んでしまい、結局味は黒砂糖羊羹の感が強かったようだ。
3年生の孫娘はお正月に風邪で寝込んだため、今年になってから初めて会ったが、また大きくなっている。幼稚園年中組みの孫息子は、昨日の学芸会で「チルチルミチル」の主役をしたと、得意そうにチルチルのせりふを聞かせてくれた。来る途中に駄菓子屋さんで50円ずつ買い物をさせてもらったらしく、家族用のメンコも買ってきた。いつの間にかジイジも混ざってメンコ大会が始まり、みんな本気でプレイしている。夫は昔取った何とやらで上手だが、次第にフォームのよい孫息子、スポーツ的な勘に優れた孫娘に、追いあげられているようだ。
私は孫たちに、チョコレートについて話してあげようと思っていた。
16世紀に南米原産のカカオをコロンブスがヨーロッパへ紹介し、チョコレートやココアとして楽しむようになったこと、ポリフェノールを含んでいる健康食品で、昔は薬用スパイスとして使ったこと、日本人として始めてチョコレートを食べたと推察されるのは、伊達政宗の命を受けて太平洋を渡った支倉常長・・・・。
オッと、バアバの話は難しくてなどと言われそう。いつかまた機会を見つけて、易しく話してあげたいものだ。

夏の香り、春のしるし

4日(土)にスリランカから帰国し、あっという間に1週間が過ぎた。
コロンボでは36度の暑さだったのに、成田は0度。風邪をひいたらたいへんと心配したが、6日(月)は3月出版予定の本の原稿チェックとイラストの仕上げ、7日(火)は福島県知事と私も任命されてるしゃくなげ大使5人との懇親会に出席、8日(水)は入稿と忙しく、風邪などひいてる暇がない。

今回の旅はスパイスと紅茶、アユールヴェダが目的だった。中でも強く心に残ったのは島の北部高地にある、ヌワラエリヤの茶畑だ。赤い粘土質の急斜面を根気よく耕し、あれほど見事な緑の段々畑にするまでにどれほどの困難があったことか。また、足場の悪い畑で夜明けから茶摘をするタミール人たちの重労働はいかばかりか。前から紅茶は好きだったが、一杯の紅茶を飲むのにも感謝していただかなければ、としみじみ思っている。
スリランカと聞くと、治安が悪い国という印象がある。けれども滞在中に一度も不安を感じたことがなく、仏様に花を供えて祈る人々の多さに感動を覚えた。寺院の前で売っているお供え用の花が素晴らしい。
清らかな香りのジャスミンの花、ほのかに香るピンクの蓮の花に白い睡蓮、青みを帯びたワイン色の芳香性熱帯睡蓮が20円前後だ。私たちには安くても、現地の人々にはけっしてそうではないはずなのに、仏像の台座から花がこぼれるほどお供えをしていた。また、大きく枝を広げた菩提樹と、木陰にある仏像に小さな子供たちが手を合わせているのも印象的だった。
スリランカは今夏の季節。プルメリアとジャスミンの花の香り、そして、夜空の星の美しさがなつかしい。

今日は風もなく、穏やかな日差しだった。
「水ぬるむ」という言葉を思い出し下の庭の池を見にいくと、メダカが活発に泳ぎ回っている。水温がすこし上がっているのかもしれない。おたまじゃくしはまだだが、猫の恋のシーズン真っ最中だから、蛙合戦も今年は早いのではないだろうか。
庭で、春のしるしを二つ見つけた。
その1:黄色いクロッカスがローズマリーの根元で、ほっこりと開花。昨年より3日遅い
その2:フキノトウ6個収穫。ふき味噌にしてコシヒカリの白いご飯と。美味
なり。いかにも日本の春を告げるハーブの代表選手といえよう。



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